1日目
愛らんどシャトル
青ヶ島は太平洋のど真ん中にある、外周10キロほどの小さな島で、実に東京都内からは南に358キロ。そんな青ヶ島の秘境たる所以は、その上陸の難しさ。アメリカのNGOによって「死ぬ前に見ておきたい絶景13選」にも選ばれ、いまや青ヶ島は世界から人の来る島になっています。八丈島空港からヘリコプターで青ヶ島へ。
ヘリコプターからの景色
離陸から10分ほどすると、だんだんと見えてくる青ヶ島。そうこうしていると、あっという間に青ヶ島に到着です。これが噂に聞く断崖絶壁。この日はすんなりと青ヶ島に上陸成功!ここから約24時間(予定)の青ヶ島滞在がはじまります。
十一屋酒店
青ヶ島レンタカーをやっている会社は、島唯一の商店である「十一屋酒店」も経営しているほか、同じく唯一のガソリンスタンドや整備工場なども経営している、いわば「島のライフライン」的存在。
ビジネス宿 中里
レンタカーを手に入れたら、まずはこの日の宿である「ビジネス宿
中里」さんに向かいます。なぜかといえば、昼食を受け取るため。宿のおかみさんに手渡されたのは、小さな手提げバッグ。中にはお昼になるであろう食材がそのまま入っています。これ、いったいどうするのか?それは後でのお楽しみ。
部屋
中里の部屋はシンプルな6畳間。歯ブラシ、タオル、浴衣つきで安心です。共同トイレは温水洗浄のトイレ付き。共同浴場は男女別で、水圧も高く快適でした。
郵便局
宿の隣には、島唯一の郵便局が存在します。もちろんATMもついています。島で現金が必要になった場合は、ここに頼るしかありません。主にヘリや船が動かず、延泊する時に必要性が出てきそうな予感です。
大凸部遊歩道
宿を出て最初に向かうのは、島で最も有名な展望台「大凸部(おおとんぶ)」。標高423mで、島でも最も高い場所です。車を停めた後は、展望台まで10分ほどのライトトレッキング。
大凸部
石段を登り切り、しばらく歩くと、突然視界が開けて展望台に到着!その展望台からの眺めがこちら!そう、これこそがずっと追い求めてきた青ヶ島の風景です!青ヶ島の代名詞でもあるこの地形は、いわゆる「カルデラ」が二重に発生している、二重カルデラというもの。そもそもカルデラとは噴火口にできる凹地のことですが、ここ青ヶ島では、島のほぼ全てが火山/噴火口であって、平地は1つの大きなカルデラのみ。さらにその中心部に小さな噴火口(中央火口丘)があって、その内側にカルデラが存在しています。ちなみに外側を外輪山、写真で見える中央の小さな山を内輪山(丸山)と呼びます。
尾山展望公園
ずっと見ていてもまったく飽きませんが、とはいえ滞在時間は1日しか無いため、先を急ぎます。次に向かうは、ちょうどこの写真の左側の峠にある「尾山展望公園」です。これが尾山展望公園からの眺め。大凸部よりも東側にあり、地熱で緑がはげている部分が目立たない景色でした。青ヶ島は外輪山が切り立った崖、その外は外洋!という特殊な地形であるがゆえに、こうして開けたところに来ると、外輪山の尾根近くに水平線が現れます。
東台所神社
展望公園からは、尾根伝いに大凸部との間にある「東台所神社(とうだいしょじんじゃ)」へ行くことができます。その昔、失恋の腹いせに(正確には風習による男女の引き離しだったと聞きました)島民を何人も殺した後に自害した「浅之助」という人物がおりまして、彼が悪霊となって祟りを起こさないよう、こうして祭って鎮めているのだそうです。ただし!今ではその逸話もポジティブに捉えて「縁結び」の神として崇められているんだそうですよ。
青宝トンネル
次は、青ヶ島の生命線でもある「三宝港」へと向かいます。港へ抜けるためには、外輪山に穴を開けた青宝トンネルを通過します。ちなみにトンネルはギリギリ2台がすれ違える幅を持っているのですが、さすがに写真のクレーンとはすれ違えませんでした(笑)
コンクリート
そして、トンネルを抜けると目の前はすぐ三宝港でした。そこに現れた光景は…奇妙な歪みを見せる立体的なコンクリートの壁。ほぼ垂直にそびえる切り立った崖(外輪山の外側)にへばりつくように、三宝港はありました。コンクリートに囲まれて。こうして作られた崖の表面は、とてももろく、ちょっとしたことで崩れてしまうのです。中でも、どうしても、どーーしても崩れてほしくない場所があります。それがここ、三宝港なのです。当然です。ここにつく船が、島民の命を支えているのですから。
三宝港
大量に積まれたテトラポッドが海の荒々しさを裏付けます。「消波ブロック」という一般名を、この時ほど実感したことはありませんでした。自然の驚異を乗り越えてそこに住み続けること。三宝港ではそんなことが学べた気がします。この人工的な絶景とともに。
ランチボックス
さて、三宝港での圧巻の光景を目にした後は、お昼をとることにしました。ここでついに明かされるのが、「ビジネス宿
中里」さんでもらったランチボックスです。中身はこのような感じ。お皿とハシに、生卵、ソーセージ、干した魚の切り身、芋類。さらに中里特性の魚の塩辛。ほかにおにぎりが2個。もちろんこのままでは食べられないものばかり。どうするかといえば、青ヶ島の地熱を利用した「地熱釜」を使います。
地熱釜
地熱釜では、この釜の蓋をあけ、蒸したいものを中に入れます。釜下部にある赤いコックをひねると…「シュー」という音とともに、高温の蒸気が噴き出します。これで蒸し料理を行うわけですね。蒸しの所用時間ですが、冬場では玉子、魚、ソーセージは15~20分、芋類は30~45分くらいがベストかな、と感じました。
ひんぎゃ
隣には、青ヶ島の名産でもある「ひんぎゃの塩」を作る事務所がありました。ひんぎゃとはこの地熱からの水蒸気が出る穴のこと。「火の際=ひんぎゃ」だそう。あの大凸部で見た、緑のない丸山の壁面がこの「ひんぎゃ」のある場所となっています。確かにこれでは樹木が育ちません。実際大地に触ってみると、あったかいのです。この冬にも関わらず!
蒸し料理
まず最初の蒸し料理ができあがりました。玉子の殻は高温になっていますから要注意。食べてみると…おおお、どれもおいしい!こころなしか味が濃い!ひんぎゃの塩が甘辛くてうまい!
芋
特に絶品だったのが、この芋。地熱釜でふかすと、こんなにおいしいの!?というくらいに、黄金色でふんわりほくほく、驚くほどに絶品でした。これは青ヶ島に来たら必ず試してほしいランチですね。
丸山一周遊歩道
蒸しランチで満腹になった後は、そのまま丸山を登ってお鉢周りを決行します。お鉢周りとは、火口のまわりをぐるりと1周することです。遊歩道はぐるりとまわって30分ほど。
展望台
道を進むと、まずは丸山の展望台が見えてきます。展望台からの眺めがこちら。山の尾根の切れ目に、少しだけ水平線が見えるのが面白い。
御富士様
展望台のすぐ脇には「御富士様」と呼ばれる神社が。旧来の信仰による生活の弊害(女性の行動に制限がかかるなど)を取り払うため、ここに祠を作って神の怒り(=噴火)に触れないよう気を使ったという歴史があるそうです。その際、清められたもの(=海のもの)ということで、大変な困難を冒してまで小さな海岸に下り、この丸くなった石を拾ってきてはこちらに供えたのだとか。
青ヶ島酒造
実はこの日は夕方から嵐の予報で、そろそろ宿に戻らなければ…と思っていたんですが、来ちゃいました、青ヶ島酒造に。ここで少しだけお勉強を。青ヶ島では、働きに出ている旦那さんのために、奥さんが自家製のお酒をつくるという文化がありました。それがいわゆる青酎です。もちろん各家庭事に少しだけ異なる原料、レシピ、味で、どこそこのだれの酒がうまい、なんてこともあったみたいです。という話を教えてくれたのが、青ヶ島酒造の事務局を担当されている奥山さん。杜氏の2代目です。
試飲
現在ですが、杜氏は10人。元々が各家庭の味ですから、一族ごとに秘伝のレシピを代々受け継いでいるそうで、まさに十人十色の味わいができあがるそうです。この青酎は基本的に芋焼酎で(2種類だけ麦焼酎もある)、杜氏によっては可能な限り島内の芋を使っています。今回、青酎の14銘柄を全て試飲しましたが、本当に「これ全部同じ『青酎』なんですか?」ってくらいに味が違います。青酎、面白い!
オオタニワタリ
杜氏によっては麹まで島内のもの。どういうことかといえば、島特産の植物である「オオタニワタリ」などに付着した天然の麹を利用して、もろみを作っているのです。いままで様々な酒造、蒸溜所、醸造所を訪ねてきましたが、天然の麹を使っているところなんて初めてですよ。これが青酎の味の秘密だったのか…!と、大変に腑に落ちた次第です。
夕食
工場見学後は中里へ戻り、入浴後に夕食を。じゃーん。新鮮な刺身、島寿司、あしたばのおひたし、鶏肉の照り焼き、そしてその他小鉢と、先ほど仕込んでいた「青酎」です。青酎は別料金になりますが、普通に販売している額よりずいぶん安かったですね。
青酎
菊池さんの青酎(正確には「あおちゅう」だそう)は、とろりと甘く、飲みやすいのが特徴。とはいえアルコール分30%もあるんですよね。これは危険なお酒だ…。
おじゃれ 杉の沢
ゆっくりと食事を取って、一旦部屋に帰った後は、青ヶ島名物?である居酒屋に。「おじゃれ
杉の沢」に向かいます。中里からはだいたい徒歩5分くらい。島の居酒屋というか、スナックというか、不思議なお店でした。
タコフライ
新鮮なタコのフライがおいしい。もぐもぐ。
やきそば
終盤は小腹が減ったので特性のやきそばを注文。これがめちゃくちゃうまい。「杉の沢」ではタコとやきそば。覚えた。隣に現地のおじさんがやってきてこんばんは。この佐々木さん、歌手どころではありませんでした。なんと青ヶ島の元村長で、実に10年以上も職をつとめたのだそう。おおお、まさにこの島の生き字引的存在ではありませんか…!の後は島についての話をいろいろと聞かせてもらいました。こうして青ヶ島の夜はふけていくのでした…。