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東京・八丈島で出会う、贅沢なひととき。 元島民と巡る1泊2日の旅
東京・八丈島で出会う、 贅沢なひととき。 元島民と巡る1泊2日の旅
東京の沖合に浮かぶ伊豆諸島。大島や新島、三宅島などの有人島と、そのほかの無人島あわせて100以上の島々から形成されている。そのうちのひとつである八丈島は、大島に次いで人口の多い島。そこで生まれ育ったのが笹本海人a.k.a.KOZAKANAくん。おらが町の魅力を教えてもらうべく、9月中旬にKOZAKANAくんを引き連れ、一路八丈島へと向かいました。
都心から1時間弱の南国。
羽田空港から1時間弱で到着する八丈島。直線距離にすると300キロほどだから、東京-名古屋間くらい。島民は7000人ほど。コンビニはないけど、小さな飲食店街はあったりする。島内はヤシの木とハイビスカスがそこら中に咲いていて、走っているクルマの品川ナンバーを除けば、まさに南国。改めてだけど、ここはれっきとした東京都。
島の形はひょうたん型。八丈富士と三原山の2つの海底火山が接合してできているから、特殊な形をしている。島の中心部は谷になっているくびれ部分。空港やホテル、飲食店などが集まっている。海沿いを走る八丈一周道路は約45キロ。クルマなら1時間半ほどでぐるりと島を一周できる。
そんな場所で生まれ育ったKOZAKANAくん。今回は5年ぶりの帰省。「一度行ったら、帰りたくなくなりますよ」と語る彼と、八丈島の魅力を探す旅の、はじまりはじまり。八丈富士で絶景ハント
八丈島空港を降り立ち、早々に向かったのが八丈富士。ひょうたん型の島の西側に位置する、標高854メートルの八丈島最高峰。
「島のシンボルなんですけど、実は初めて登ります。八丈の人も、あたり前にあるものだから、別に登ったりもしないんです。だけど、両親がここに登ったときに撮影した写真がいまも家にあって、いつかは登りたいなと思ってて。でも、今日は天気があいにく過ぎましたね(笑)」 そう、この日は登山口に到着するなり濃い霧があたりを覆い、ときには雨も降るという悪天候。木々に囲まれて風の少ない登山道は、まるでスチームサウナのよう。「思えばいつもこんな天気で、晴れる方がラッキーかも。これもまた八丈島の魅力なんで」と笑って答え、取材陣を横目に1280段ある階段をスタスタと登っていく。晴れることを願いながら、整備された道を進み山頂を目指す。それにしても、平地の何倍も湿度がある。ムッとする。低山だからといって油断は禁物、水分の携行は必須。
途中、大きな岩をひっくり返して虫がいるか確認したり、野花に近づいて香りを嗅いだり、大きな虫がTシャツに止まったとしてもはらうことはせず、顔に近づけて観察したり。KOZAKANAくんのように、ただ景色を見るだけじゃなくて、花鳥風月を全身で浴びて感じられたら、天候なんて関係ない。八丈島ならではの生態系は、東京であって東京じゃない。ちょっとした異国のジャングル。40分ほどで山頂に到着すると、吹き飛びそうなほどの強風に包まれる。「この辺から八丈島を一望できるはずなんですけど…」と思わず、KOZAKANAくんが呟く。
本来なら、ここからズコーンと八丈島を眼下に見下ろせるらしい。加えて、火口を中心にすり鉢のようになっている八丈富士の山頂は、1時間でぐるっと一周できる、「お鉢めぐり」と呼ばれる定番観光スポット。そしてこのお鉢、一説によると映画『君の名は。』の山頂で互いに名前を呼び合うシーンの舞台とも言われているらしい。せっかくだからと持ってきたランチは、八丈島グルメの島寿司。空港内にある「レストラン アカコッコ」でテイクアウトしたもの。1日に10個しかつくれないから事前の予約は必須。KOZAKANAくんの大好物でもある。
「島寿司のネタはカンパチ、キンメ、シマアジなんかが主流なんですけど、今回はカンパチですね。自分もカンパチの島寿司が、一番好きなんです」
島寿司はマグロの漬けのようにネタを漬け込んであり、わさびではなく、からしを使うのが特徴。たいていの居酒屋で提供されているし、専門店もある。KOZAKANAくんのフェイバリットは、八丈島に住むおじいちゃんがつくる島寿司。漬ける時間が長くて、味が濃いのが特徴らしい。腹ごしらえも済ませ下山したあと、ちょうど中心部への帰り道にある「ふれあい牧場」に立ち寄った。ここまで下ると、山頂の天候とはうって変わって、晴れ間も覗いてきた。八丈島は雲の流れが早く、天気が変わりやすいみたい。
放牧されている牛の真ん中を通りたどり着く展望台からは、山頂同様に島全体を見渡すことができる。
さらには、ひょうたんのくびれ部分にある飛行場に、飛行機が離着陸する様子も見ることができて、これがまたなかなかの景色。事前に飛行機の時刻表と照らし合わせて訪れるのもいいかもしれない。八丈島でできることは、自然でのアクティビティだけじゃない。小さな島にも、ならではの文化がある。代表的なものが黄八丈。
日本三大紬に数えられる「黄八丈」は、黄色、樺色、黒色の3色を基調とした絹織物。いまから800年以上前の平安時代から織られていたとされ、かつては年貢の代わりに幕府へと納められていたという。 最大の特徴は染め。島内の植物を使い、黄色は八丈刈安(コブナ草)、樺色はマダミ(タブの木)の樹皮、黒色は椎の木の樹皮と沼浸けで染められている。 かつては200人の織子さんがいたものの、現在は50人ほど。「八丈民芸 やました」では、黄八丈の織物体験をすることができる。「ぼくのおばあちゃんも、黄八丈の着物を持っているんです。八丈島に住んでいたときは全然興味がなかったけど、大人になると、こういうことにも興味が湧いてきますよね」
職人歴15年以上の先生にレクチャーを受け、リズミカルに黄八丈を織っていくKOZAKANAくん。「通してトン、足を替えてトン、通してトン、踏み替えてトン」という職人さんの掛け声で、足のペダルを踏み、糸を通し、黄八丈の柄ができていく。
50分後に完成した15センチ四方の黄八丈は、2週間後に発送してくれるという。職人さんの総評は「ちょっと雑でしたけど、チャレンジングでした(笑)」。次に向かったのは、島で最大の土産物がラインナップされている「民芸あき 本店」。空港にも支店がある、人気のお店。
「八丈のお土産はいつもここで買っている」というKOZAKANAくんが、必ず買うものが3つある。それはパッションフルーツのジュースと、黄八丈サブレと、ひんぎゃの塩。「八丈ってパッションフルーツも有名で、レトロなパッケージのパッションジュースは必ず買って行くんです。ソーダを入れてもいいし、お酒で割ってもいい。そして鳩サブレじゃなく、八丈島と言えばの黄八丈サブレもバターの風味が芳醇で美味しいんです。ひんぎゃの塩は青ヶ島の名産品で、粒が荒くて旨味も濃く、いろんなものにかけて食べてます」
ほかにも、近海の魚をはじめ、「情け島」や「島流し」といった八丈島の焼酎も豊富に取り揃えている。八丈ならではのくさや、アシタバを使った土産物、スーベニアTシャツもあり。ステッカーなんかも、クセになる可愛らしさ。
「せっかくだから夕陽でも見に行きましょう」と提案してくれたKOZAKANAくん。彼いわく、八丈島の夕陽は絶景らしい。そうして向かった夕日ヶ丘は、その名の通り、八丈島随一の夕陽が見られるスポット。時刻は18:00。太陽が真っ赤になり、雲を染め、八丈小島に沈んでいく。
「めちゃくちゃ綺麗じゃないですか? 住んでいた頃は、おじいちゃんと頻繁に来ていたんです。(一呼吸置いて)都心も楽しいんだけど、やっぱりぼくは自然の中がいい。いつかはこっちに戻ってきて、ゲストハウスとかやってみたいんですよね」
地元民も多く集まるこの場所で見る夕陽は、大げさではなく不思議な力がある。焚き火の前ではなんでも話せるように、夕日ヶ丘で落ちていく太陽を眺めていると、本音がトボトボと漏れてくる。ちなみに、日中に訪れても、八丈ブルー(八丈島の海は濃い青をしているため、そう呼ばれている)を一望することができて、運がよければクジラやイルカも肉眼で見ることができる。夕日ヶ丘
- 住所: 東京都八丈島八丈町大賀郷
島の流儀に倣い、はしご酒
お待ちかねの食事の時間。19:00にピットインしたのは、地のものが揃い、ローカルも観光客も訪れる「藍ヶ江水産」。
「やっぱりくさや食べなきゃ始まらないですよ。おじいちゃんは毎日食べてますからね。ぼくも大好きだし」と言いながら、テーブルにやってきたくさやを手慣れた手つきでほぐす。スタッフ陣も、勧められるままに口に運ぶ。「…うん、…全然いける!」となったのもつかの間、数秒後にギブアップなんて人も。「この匂いがいいんじゃないですか〜」とKOZAKANAくん。うん、やっぱりくさやはくさやでした。ぜひ一度お試しを。KOZAKANAくんいわく「島の人たちは、はしご酒が当たり前」とのこと。それに倣い、1軒目をあとにし、5年前の帰省時にも訪れたことがあるという地元で人気の焼肉屋「三年目の浮気」へ。この日もローカルたちで大賑わい。
意外にも焼肉屋が多い八丈島。「三年目の浮気」は和牛をメインに、あえて産地にはこだわらず、 そのときどきで一番美味しいお肉を厳選して提供している。KOZAKANAくんお気に入りのタンとはらみをサクッと食べて、クッとビールを流し込み、3軒目へGO!最後に向かったのは「居酒屋 ichiban」。マスターとママが元気に切り盛りするこのお店は、カラオケが楽しめる居酒屋。普段はカラオケを苦手とするKOZAKANAくんだけど、島の開放感がそうさせたのか、この日は1曲だけ照れ臭そうに歌声を披露してくれた。
八丈島のはしご酒の注意点として、深夜帯はタクシーが特に捕まりづらいということ。なので、ホテルが遠い人たちは、その時間も考慮して楽しんで。居酒屋 ichiban
- 住所: 東京都八丈町八丈島三根364-1 1F
- TEL: 04996-9-5438
- 営業時間: 11:00〜14:00(予約時のみ)、17:00~24:00(場合により延長あり)
- 定休日: 木曜
アングラーにとっての天国、八丈島
翌朝2日目は、KOZAKANAくんお待ちかねの釣りの日。自他共に認める釣り好きで、はこふぐをかぶった「さかなくん」が大好き過ぎて、幼少期に母親から名付けられたのがKOZAKANAという愛称の由来だったりする。
「昨日は深夜まではしごしていたから、結構二日酔いですね(笑)。でも、釣りはスケボーみたいに、体を動かしまくるわけではないから全然平気だし、釣れた瞬間に二日酔いなんて吹っ飛ぶっす!」やってきたのは、KOZAKANAくんが八丈島に来たときに必ず訪れるという藍ヶ江港。ここ八丈島は、船で沖に出ずとも、陸っぱりからでも大物を狙えるのが魅力なのだという。
「今日の狙いはアカハタです。運がよければカンパチ。八丈の海はドキドキするんですよね、釣れる魚のスケールがでかいから。前なんて、20キロくらいの大物が釣れましたよ」ポイントを変えながら、キャストを続けること数時間。なかなかヒットしない。けれど、釣れなくたっていい。八丈の自然と一体になれる感覚が、なにより心地いい。「今日は釣れなかったけど、最高でしたね!」の言葉を合図に、この日の釣りは終わりを迎えた。
「ちなみに八丈って釣りの島で、渡船が代表的な産業になるくらい、釣り人たちがやってくるんです。しかも、釣った魚を調理してくれる食堂や宿もいくつかあります。今日はダメでしたけど、ぜひ八丈に来たら、みなさん釣りをしてみてほしいですね。本当、驚くほどの大物が釣れるんで。おじさんもこの間、40キロの大物を釣ってましたから」 釣り慣れてない人や、時間に余裕がないけどどうしても釣りたいなんて人は、船に乗せてもらうことも検討を。心と体を浄化してくれる八丈島の自然
藍ヶ江港の釣り場から目と鼻の先にある「足湯 きらめき」は、釣り人や地元の漁師たちを癒す足湯スポット。神経痛、関節痛、筋肉痛などに効果がある。火山島の八丈島には温浴施設も点在していて、特に中之郷は温泉が集中するエリア。
「いつも釣りのあとは、ここで今日の釣りはどうだったかぼんやりと話しながら、海を眺めてダラダラしてます。にしても、今日はもう、全然ダメでしたね(笑)。でも、釣れなくてもその時間が心地よかったからよしとします」
その後、KOZAKANAくんが案内してくれたのは、「滝を裏側から見られる」ということから名付けられた「裏見ヶ滝」。国道から少し入っただけなのに、まるで南米のジャングルみたいに、鬱蒼とした自然が出迎えてくれる。
「昔、おじいちゃんとよく来ていたところ。人もそんなに多くないし、マイナスイオンをバンバンに浴びれる大好きな場所です」 ちなみに、滝の入口のそばには、人気の露天風呂「裏見ヶ滝温泉」がある。入浴料は無料。混浴のため、訪れる際は水着を持参すること。旅を締めくくるのは、乙千代ヶ浜海水浴場。人工的に囲われたタイドプール(潮だまり)で、安心安全に海水浴を楽しめる。小魚もたくさん泳いでいるから、それを観察するのも楽しい。
「来たのは10年ぶりくらい。小さいときは本当によく来ていて、ひたすらここで遊んでました。泳ぎもプールじゃなくて、ここで学びましたし。懐かしいですね」と、水面に浮かび、たゆたいながら話してくれたKOZAKANAくん。久しぶりに訪れた八丈島の感想を聞くと、こう答えてくれた。
「本当に最高でした。ここは、ぼくの故郷であり、リセットされる場所です。来る度に、海と風が、心身ともに余計なものを洗い流してくれる。あと、見てもらってわかる通り、都心に比べると、なにもないんです(笑)。人も少ないし、コンビニもないし、交通も不便。八丈島は、なにも考えずに過ごす時間が最高だし、贅沢なんです」
買い物三昧やグルメ三昧の旅もいい。観光名所をかけずりまわるのも悪くない。白い砂浜のビーチで日焼けするのも捨てがたい。でも、八丈島に行くときは、そんな目的をただこなすような忙しない旅とは違うよさを味わって欲しい。雄大な自然と、ゆっくり流れる時間と、優しい人たち。そんな出会いに身を任せていたら、これまでの旅で、もっとも安らいだ時間を送ることができた気がする。なんたって、スーパーの外に設置されているベンチに座っているだけで多幸感に包まれるんだから。これ本当。
笹本海人a.k.a.KOZAKANA
1999年生まれ。小学校3年生まで八丈島で過ごし、その後に一家で都心へと移住。現在も八丈島には親戚が住んでおり、長期の休みが取れたときは、家族とともに帰省することも。サンフランシスコ発のスケートボードブランド〈FTC〉のスタッフとして働くかたわら、趣味の釣りが高じて〈メトロポリスフィッシング(Metropolis Fishing)〉を友人とスタート。モデルとしての活動も大忙し。
島へのアクセスは、伊豆・小笠原諸島交通情報サイト「 東京宝島うみそら便 」もご活用ください。
取材日: 2022年8月12日〜14日
photo:
Shingo Goya /
text:
Keisuke Kimura /
edit:
Shuhei Wakiyama(HOUYHNHNM / Rhino inc.)
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