TSHIMA 父島・母島

小笠原ネイチャートリップ 東京の世界遺産へ

小笠原ネイチャートリップ 東京の世界遺産へ

東京の南・約1000km、太平洋上に浮かぶ小笠原諸島は雄大な自然の宝庫。その豊かさと生態系の希少さから、ユネスコの世界自然遺産にも登録されている。 今回は、国内外の風景を中心に、自然が織り成す一瞬のきらめきを大胆かつ繊細に表現した写真で高い評価を得ている写真家・横田裕市さんとともに、父島と母島をめぐる。 自然の“目利き”ともいえる写真家のファインダーを通して、小笠原の真の魅力が見えてくる。

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父島から向かう絶景の無人島に上陸

南島・扇池の海は目を奪われるほどの透明度。防水対応のスマートフォンや防水ケースを用意しておくと水中撮影に役立つ
南島・扇池の海は目を奪われるほどの透明度。防水対応のスマートフォンや防水ケースを用意しておくと水中撮影に役立つ

小笠原諸島の中心である父島の南西沖に位置する南島は、島全体が国の天然記念物に指定されている無人島。上陸には、東京都自然ガイドの同行が必要で、認証を受けた各社が父島から出発するさまざまなツアーを催行している。 父島・二見港から小型船に乗り、約30分で南島に到着。沈水カルスト地形*の南島は、鋭くとがったラピエ(石灰岩柱)で覆われている。桟橋のない岩場に降り立ち、ガイドの道案内で向かったのは東尾根。ここからは、島の中央部にある扇池を一望できる。 扇池は石灰岩地域に特徴的なドリーネ(すり鉢状の窪地)で、石灰岩でできた天然の橋で外洋とつながっている。エメラルドグリーンに輝く海は限りなく透明で、白い砂浜と一体となって広がる姿は、息をのむほどに美しい。 砂浜には、1000~2000年前に絶滅したといわれるカタツムリ(ヒロベソカタマイマイ)の半化石化した殻が散在しているほか、ウミガメの産卵時期(5~8月)には、産卵のために上陸したウミガメの足跡が残っていることもある。 「亀裂の入った天然橋を補強したりせず、あえてそのままにしてある。もしくずれてしまっても、それはそれで自然がつくり出した美しさとして受け止める」という、ガイドの話が心にすっと入ったという横田さん。 「島まるごとが自然保護区であることに強い意味を感じます。特に扇池は面白い。ここは、ありのままの自然が美しすぎる、完璧すぎる場所ですね」という感動とともに、扇池の絶景を写真におさめた。 *沈水カルスト地形:石灰岩が雨などで浸食されてできたカルスト地形が、地殻変動で再び海に沈んでできた地形

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イルカと遊ぶそんな夢のような体験も

横田さんが撮影したハシナガイルカ。船のすぐ近くに来た瞬間をとらえた奇跡の一枚

父島では、イルカウォッチングや一緒に泳ぐドルフィンスイムなど、イルカにまつわるツアーも人気。一年を通して遭遇率は8割前後と高く、特に5~11月はイルカに出合える可能性がいっそう高くなる。 今回、我々が南島上陸ツアーに参加した際も、ドルフィンスイムツアーの参加者と同じ船に乗り合わせた。そしてなんと南島からの帰路、二見港の湾内でイルカに遭遇! ドルフィンスイムツアーの参加者が大喜びでイルカとの遊泳を楽しんだのはもちろん、手をのばせば届きそうな距離でさっそうと泳ぎ回るイルカの姿に、船上のだれもが夢中になった。 希少な生態系から“固有種の宝庫”ともいわれる小笠原諸島。父島でも、イルカやクジラなど海の生き物に限らず、貴重な生き物に出合えるツアーがある。なかでも「ナイトツアー」は、固有種のオガサワラオオコウモリ、緑色に輝くグリーンペペ(ヤコウダケ)など、昼とはまた違う父島の表情を堪能できるのが魅力だ。

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母島トレッキングで南国の植生を間近に

乳房山頂上にて、手つかずの自然が広がる母島東部の眺め
乳房山頂上にて、手つかずの自然が広がる母島東部の眺め

父島から南へ約50km、船で約2時間の母島は、亜熱帯性の原生林に覆われた緑豊かな島。中央には、小笠原諸島の最高峰・乳房山がある。とはいえ標高は463mで、登山道も整備されており、初心者でも楽しめるトレッキングコース(往復で約6時間)として人気。 我々も母島観光協会のウェブサイトで紹介されていたガイドとともに出発。植生や固有種、歴史などについての解説を聞きながら山頂を目指した。道中では、オガサワラビロウ(常緑樹)、ハハジマノボタン(牡丹)など小笠原諸島固有の植物が目を楽しませてくれるほか、母島列島固有のハハジマメグロ(野鳥)の姿も。 乳房山で見逃せないのがカタツムリ。今回のトレッキング中には、オトメカタマイマイ、テンスジオカモノアラガイ(固有種)、オガサワラオカモノアラガイ(固有種)を見つけた。小笠原諸島ではカタツムリの固有種率が極めて高く(約100種の在来種のうち90%以上が固有種)、いまなお進化を続けている。その独自性は、世界自然遺産認定の大きな理由のひとつになった。 小笠原諸島の山の魅力を体感しながら歩いていると、あっという間に頂上に到着。 「上りやすい山ですね。小笠原ならではの植生をガイドさんに教えてもらいながら目のあたりにできるうえ、太平洋戦争の名残を感じられる場所もあって、自然から歴史までを体感できる文化的価値の高いトレッキングでした」道のりをそう振り返った横田さん。緑濃い森と青く輝く海が織り成す頂上からの絶景を「非現実的な夏の原色」と表現した。

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より気軽にハイキング最南端の“小富士”で絶景に心動く

小富士頂上からの眺め。目の前に鰹鳥島、その奥に平島、水平線上に姉島が見える
小富士頂上からの眺め。目の前に鰹鳥島、その奥に平島、水平線上に姉島が見える

母島南端にある小富士は、日本最南端の郷土富士。都道(241号線)最南端地点を起点に、原生林の中の遊歩道を進むと、色鮮やかなサンゴが美しい南崎海岸に出る。分岐からアップダウンの少ない(頂上手前はややきつめの上り)道を進むと小富士の頂上(86m)に到着(往復で約2時間)。 突端に立った横田さんの目に入るのは、“ボニンブルー”と称される紺碧の海とそこに浮かぶ島々のみ。「海感が強い。この迫ってくるようなボニンブルーを感じられるのは、最南端に立った者だけの特権ですね」

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空に輝く“天の川”を自らの目で見たことがあるか

晴天のうえ、新月(月明りが暗めで星が見えやすい)という好条件が重なり、信じられないほど美しい星空が広がった
晴天のうえ、新月(月明りが暗めで星が見えやすい)という好条件が重なり、信じられないほど美しい星空が広がった

「天の川をここまで精細に肉眼で見られて、一眼レフで撮影できたのは人生ではじめて」 と、横田さんが興奮気味に語る写真は、星空ウォッチングスポットとして地元でも評判の「旧ヘリポート」で撮影したもの。 文字通りの満天の星。夜空を流れる天の川はもちろん、低い位置にあるため都会では街灯りでほとんど見えないさそり座、肉眼で見える限界とされる6等星までもはっきりと見える。この世とは思えないほどの美しさに言葉を失った我々は、飽きることなく星空を見上げ続けた。

PHOTO

母島

夕日鑑賞スポット「サンセットシアター」にて、日没直前に撮影。淡く浮かぶ新月が見える
「いいのが撮れましたよ」と宿に戻って来た横田さんが見せてくれた一枚。独特の露出調整で、集落の風景と星空を共存させている
沖港近くの脇浜なぎさ公園内にある「ウミガメ産卵人工孵化場」では、アオウミガメが生け簀を泳ぎ、4月後半〜8月初旬には産卵、7月中旬〜9月中旬には孵化の様子を観察できる
乳房山のトレッキング中に見つけたハハジマメグロ(母島列島の固有種)。目の周りの黒いくまどりが特徴。特別天然記念物であり絶滅危惧種でもある

父島

南島へボートで上陸する場合は、「鮫池」(ネムリブカというサメが水底に集まるため)と呼ばれる入江から上陸する。入口が岩礁で狭く、島には桟橋もないため、海の状況によっては上陸できないこともある
二見港から夜明け山方面へのびる“夜明け道路”沿いにある長崎展望台にて撮影。朝日が海を静かに照らす
ナイトツアーで見つけた固有種のオガサワラオオコウモリ。人の手が入るまでは、小笠原諸島唯一の哺乳類だったとされる。翼を広げると約80cmにもなる
父島から竹芝へ向けて連絡船「おがさわら丸」が出港する際には、地元の方々が港に集まってくれるうえ、ツアーやアクティビティの催行各社の船が並行して航走。スタッフが手を振ったり、パフォーマンスをしたりしながら見送ってくれる

アクセスデータ(父島・母島)

<父島>

船での移動時間: 東京・竹芝桟橋から父島・二見港まで定期船「おがさわら丸」で片道約24時間

TEL: 04998-2-2587(小笠原村観光協会)

公式サイト: https://www.ogasawaramura.com

※竹ネイチャーアカデミーはこちら

<母島>

船での移動時間: 東京・竹芝桟橋から父島・二見港まで定期船「おがさわら丸」で片道約24時間。 父島から「ははじま丸」に乗り換えて母島・沖港まで片道約2時間

TEL: 04998-3-2300(小笠原母島観光協会)

公式サイト: https://hahajima.com

※パーソナルツアー PoCo(ポコ)はこちら

※おがさわら丸、ははじま丸についてはこちら