1日目
竹芝桟橋から出発
竹芝桟橋出港は夜の22時。これから大島到着まで8時間、そこから利島、新島と寄港して、式根島に到着するのは翌朝の9時過ぎです。
式根島に到着
ついてみてびっくりしたのが、なんと式根島の大型客船の接岸地点は海に向けて大きく開いています。よく、天候が悪いときには新島までは頑張ることができても、式根島をあきらめて帰ってしまうことがあると聞いていたのですが、この構造だとそれも納得です。
プチホテル「ラ・メール」
今回お世話になるのは、港から最も近いプチホテル「ラ・メール」です。「ラ・メール」は、食事付きのホテルと、別荘型の「アーリーバード」の二種類の宿を営業しているのですが、今回は冬場ということもあってこちらのホテル形式の部屋に泊まりました。
部屋
テーブル、キッチン、冷蔵庫も完備。ベッドとソファ、バス、トイレもすべてついています。まだまだ民宿が多い式根島で、このようにプライバシーやアメニティに注意した宿はまだ少数派とのことで、春先から夏の予約がどんどんと入るほどの人気なのだとか。
トレッキング
着いたのが島の北側にある野伏港ですが、そこから島の西側半分を海岸線沿いにたどる遊歩道があります。というわけで、地図から遊歩道入り口を探して、飛び込んでみました。奇妙に曲がりくねった木々の姿は、長い時間をかけて風が生み出していた形のようにみえます。式根島は、最も標高が高いところと残りの部分の差があまりありませんので、島のどこを歩いていても、こうした風の影響を木に、岩に、地形に見ることができます。
神引展望台
プチホテル「ラ・メール」がある十字路付近からあるくこと30分ほどで、遊歩道の隙間から島でも最も高い場所の一つ、神引展望台のある頂が見えてきました。目の前に広がっているのは、カンビキ湾のリアス式海岸です。絶壁の先にある深い海の碧さ、打ち寄せる波の白い飛沫が刻一刻と変わる様子、遠景にみえる新島との完璧な構図。こんな風景が東京の、目と鼻の先にあるのですね。
唐人津城
神引展望台から遊歩道をさらに20分ほど歩き、看板に「唐人津城」と書かれた入り口があるので向かってみると、たしかに何もない砂漠のような地形が広がっています。唐人津城の見どころは、この豊かな風化地形です。もろくて崩れそうな岩のこの美しさ、風化業界的にもハイクオリティです。
隈の井展望台
展望台というからには…式根島だとやはりここも絶壁です。ここの崖は特に崩れやすくなっていますので、ギリギリまではいかないように注意しましょう。
御釜湾
遊歩道ルートも後半。ここからは島の南側に面した御釜湾に設置された三つの展望台を踏破していきます。ところどころ、このように展望台がありますので、御釜湾に面した海岸地形や、波にくり抜かれた大穴を見ることができます。ゆっくりと写真をとりながら、ここまでで13時過ぎとなりました。
上山
少し時間的には遅くなってしまいましたが、島の中心部ににはいくつかの食堂がありますので、昼食をとることは可能です。今回訪問したのは中華料理ののれんが上がっている「上山」。
カツ丼
こちらで評判なのは、カツ丼なのです。島でカツ丼?
と思うかもしれませんが、たっぷりのカツが乗った丼に冷風で冷えた体が温まります。タレもおいしいんですよこれが。
みやとら
島で行動する際には、お弁当を頼むという手もあります。商店「みやとら」や、池村商店では、電話で注文するお弁当に対応しているので、食事のために戻ってくる余裕がないときなどは利用するとよいでしょう。
湯加減の穴
地鉈温泉へ向かう途中には、道路の壁面にうがたれたこんな不思議な穴が。手を入れてみると、浴室に手を入れたみたいに熱気が感じられます。この奥にも温泉が湧いているのですね。式根島は、このように島中に温泉がみられるのです。
地鉈温泉
ようやく着きました。荒々しい岩場がそのままの露天風呂です。地鉈温泉と海との距離は、この日はこのくらいでしたが、潮の満ち引きによっては海の水が入り込み、日によっては入浴ができません。海との境目にある、天然の露天風呂です。
式根松島
地鉈温泉から海岸線沿いに東に歩くと、もう一つ、野性味溢れた野天風呂がありました。白砂青松(はくしゃせいしょう)とは、白い砂浜に青い松という、日本の海岸線を表す言葉ですが、この足付温泉の付近も「式根松島」といわれた海岸と松の名勝としてされています。
足付温泉
そのまま進むと、岩場だらけの海岸線がでてきますが、湯船らしいものはなかなか見えてきません。海岸線を一番奥まで進むと、石を積んで、湯船を作っている場所がでてきます。この足付温泉は、潮の満ち引き、岩の加減によって、海水と温泉とを適度にまぜて入れる場所に入るという、不思議な湯なのです。
松が下 雅湯
足付温泉のとなりにあるのが、こちら松が下雅湯です。ここは先ほどの地鉈温泉から湯を引いております。松が下雅湯の湯船から、足付温泉の海岸を見ることができます。家族でやってくるなら、アクセスもよく、足場に危険がないこの湯がもっともおすすめかもしれません。
与謝野晶子の歌碑
この付近には与謝野晶子の歌碑もありました。昭和13年に、彼女が島を訪れた際に詠んだ歌が刻まれています。式根はもともと無人の島なれば、岩が門のようになっていてもそこを通うのは波ばかりといった意味でしょうか。昭和13年(1938年)というと、明治21年の式根島開島からちょうど50年で、次第に島にも人が賑わい始めていた頃だと思いますが、歌人はかつての無人島の名残を感じて歌にしたのかもしれません。
憩の家
水着の必要な屋外温泉だけではなく、村営の温泉施設も利用できます。それが集落の中心部から少しあるいたところにある、「憩の家」です。
夕食
島にやってきても、意外に食べられないのが島の海産物や特産品です。「ラ・メール」では、やってきた客が式根島の思い出を持ち帰れるように、意識的に島の産物や魚を取り入れた夕食を作るようにしているそうです。
つっこし汁
こちらはブダイの「つっこし汁」。味噌汁に、魚の頭も骨もすべて突っ込むところからこの名前がついたそうです。
岩海苔とタコの和物
式根島の岩海苔とタコの和物。式根島の海苔は少し歯ごたえがあって、コリコリとした触感がくせになります。これは丼でも食べられる!
島寿司
こちらはもともと八丈島の郷土料理の「島寿司」寿司種を醤油のたれに漬けて、わさびのかわりにからしで握るというのが特徴です。昔、わさびが手に入りにくかった時代の工夫の名残が、こうした料理に残っているのですね。
タカベの塩焼き
こちらは、タカベの塩焼き。これも島の周囲でよく捕れる魚だそうです。
タタキ揚げ
一見、肉団子のようにみえるこちらは、魚のすり身を揚げた「タタキ揚げ」。新島では、ムロアジやトビウオのすり身を「タタキ」というのだそうです。これがまた、口にいれると独特の香ばしさが広がります。
どんな旅も歴史と文化と人の物語としてフィールドワーク的な手法で切り取ることを得意としています。
本業は北極の気候学者。ときに船で航海に出たりしています。