1日目
檜原村に到着
私が向かったのは、東京都の西のはて、五日市線の終着駅である武蔵五日市からさらにバスで北秋川をさかのぼった山間にある檜原村です。きっとこの記事を読んでいる方も、「ひのはら?どこだろう?」と思った人が多いと思います。私も今回の旅が決まって初めて調べ始めたのですが、なかなかどうして、これが面白い土地です。
檜原村郷土資料館
縄文土器から古墳時代の遺品まで出土していて、切れ目なく人はここで暮らしていました。江戸時代には天領、いわゆる幕府の直轄地として甲州道中の番所がおかれたり、幕末後は一度は神奈川県に編入されたりと、常に領地の境目に位置してきました。こうした歴史を資料で伝えているのが、檜原村郷土資料館です。
檜原村郷土資料館のなか
たとえばこちらが展示の様子。村の人々の生活を伝える農具、衣類、生活用品が展示してあります。どれも使用感があるというのが素晴らしい。縄文時代の遺跡と発掘された石器なども展示されています。20箇所以上の遺跡があるというのは、どれだけその時代から人が住んでいたのかを示しています。
小林家住宅の模型
檜原村には文化財も数多く存在していますが、村内最古の民家である小林家住宅もその一つです。これはその模型ですが、本物は修復を経て現在も18世紀前半に建てられた急峻な斜面にそのまま残されています。
檜原村の地形
郷土資料館にきたのにはもうひとつ理由があって、それは村の地形と道が頭に入っていなかったので、まず全容を把握しておきたかったというのがあります。
檜原村の野生動物
これほどの山間部ですから、野生動物の宝庫でもあります。檜原村でみられるどうぶつの剥製勢揃いというのが壮観です。狸、狐、イノシシ、イタチはいいとして、クマ、クマ、ツキノワクマもいる!
そば処 みちこ
檜原村周辺には数多くのそば屋が存在しますが、なかでも最も秘境感がただよっているのがこちら、「そば処
みちこ」です。Googleマップで検索すると場所が表示されますが、これが本当にここなのだろうかと疑うような場所に表示されます。峠を越えた、山の斜面にあるのです。
そば処 みちこ 外観
古民家の雰囲気ただよう店が見えてきます。振り返れば山また山の、まさに天空のそば屋です。実際にたどり着いて驚いたのですが、こんな奥地にあってもけっこう客の多い人気店でした。
そば処 みちこ 店内
店はどことなく遠くなった昭和の名残りがのこっていて、懐かしさを感じさせます。座敷の席と、炉端の席と選んで座ることができます。
大盛りの二八そば
二八そばを大盛りで、山菜天ぷら付きでいただきます!
こうした店だと野性味が前面にでた荒々しいそばを出すところも多いのですが、この日食べたそばは張りがある触感で、甘くて優しい味がしました。残暑のあるうちは特においしく感じる気のする味わいです。天ぷらはヤツバ、ミズ、金時草の山菜盛り合わせ。
食後のコーヒー
食後にはコーヒーもいただきましたが、他のお客の会話が耳に入ってきたところによると、コーヒーも美味しくて評判なのだそうです。水の良い所は、コーヒーも期待できますよね。縁側には椅子も出してあって、ゆっくりとできます。
払沢の滝までの道のり
檜原村には数多くの滝があります。なかでも有名なのが、払沢(ほっさわ)の滝です。滝というと、辿り着くまでに谷底まで降りていったり、山道を歩かないといけない場所もありますが、ここはほぼ平坦で、よく整備された道で15分ほど歩くだけというのが、子供連れの家族などにおすすめなポイントです。
土産物店「森のささやき」
滝までの道のりの途中でみかけるのがこちらのかわいい建物。木細工の土産物店「森のささやき」です。こちらの建物、どこか時代にそぐわず、森のなかにまるで幻か何かのように建っているなと思ったら、実は昭和四年建設の旧檜原村郵便局を移築したものなのだそうです。
森のささやき 店内
店全体が木のおもちゃから日用品、置物などでいっぱいになっています。写真フレームなどは、木のものを選ぶと本当にいい感じですよね。
払沢の滝
「森のささやき」からもうしばらく進むと、払沢の滝がみえてきました。滝壺で水煙が広がるさまを肌で感じ取れます。払沢の滝はもちろん夏の時期にゆくのも涼しくてよいのですが、春の新緑、秋の紅葉の季節も色のコントラストが美しそうだと思いました。また冬には、時として全結氷することがあることでも知られています。
ちとせ屋
檜原村に到着したことをソーシャルメディアに投稿すると、すぐに返事が複数のかたから飛んできたのが、「必ず『ちとせ屋』で豆腐を買うこと」でした。それほど人気なのかと半信半疑で行ってみると、常に店の前に数人のかたが並んでいる混みよう。これはなかなかに期待できそうです。
ちとせ屋のおしながき
商品のラインナップはこのような感じ。売れ筋をきいてみたところ、どれも同じくらい出るのだそうですが、特に濃厚な味が好きなひとがざる豆腐と滝の音豆腐を求めるそうだときいてこちらをいただくことにしました。あとは観光客の会話で漏れ聞いたうの花ドーナツを10個入りでおみやげにすることに。
ちとせ屋のざる豆腐
こちらが「ざる豆腐」。「まあ車で帰るのだし、一丁だけ買ってゆくか」と思ったのが大後悔です。一口すくうと口いっぱいに豆腐の風味が広まって、ふだん食べている豆腐はいったいなんなのかと思うほど濃厚な味です。店頭で販売している豆乳やソフトクリームも評判がよいので、通りかかった際はぜひお立ち寄りください。
祭礼 本宿神田囃子
9月の中旬、村は祭りの季節だったのです。私が通りすぎたのは檜原村でも中心部にあたる本宿(もとしゅく)地区にある春日大社の祭礼です。調べてみれば、本宿神田囃子(もとしゅくかんだばやし)というものだそうです。
山車の天使
ちょっと気になったのが山車の側面のこの木彫の絵。天使!?なぜ天使のような造形なのだろう。仏教の童子がこうした形で表象されるのはきいたことがありますが…このあたりは詳しくないのでぜひまたの機会に調べてみたいところです。
東京都檜原都民の森
檜原街道を数馬地区からさらに山にのぼり、奥多摩周遊道路上の先にあるのが「東京都檜原都民の森」です。東京都の西のはて!軽いハイキングを楽しみたいというひと、子供に初めて森を歩き、自然を楽しむ機会を作ってみたいと考えている人にちょうどいい。この都民の森から、三頭大滝にアクセスすることができます。
みとうだんご
入り口には土産物店がありましたが、その店先で三頭大滝、三頭岳にちなんで「みとうだんご」が売られていました。くるみ味噌でいただきましたが、おやつに調度よい感じでした。
ハイキングコースいろいろ
都民の森には数十分でまわれる三頭の滝をめぐるだけのコースのほか、3−4時間かけてまわるハイキングコースなど、求めるレベルに応じてさまざまなコースが存在します。とりあえず、今回は時間がないので三頭の滝だけをまわることにしました。
歩きやすい遊歩道
払沢の滝もそうでしたが、都民の森も滝まではコースの整備が充実していて、このようにチップが敷き詰められていてぬかるみに足をとられたり、足元がつらいことがありません。香りもとてもよいですし、子供連れでもちょっと歩くのにはいいですね。
三頭大滝
歩くことほんの15分、三頭大滝にやってきました。南秋川でも最も大きく、美しい滝ということでしたが、なるほど納得です。緑あふれる谷間に一筋の白い滝の道筋が目に焼き付きます。これ、滝の両側が紅葉したらどんなにか素晴らしいことか!あるいは冬の雪のときにやってきてもすごそうです。
蛇の湯温泉 たから荘
檜原村は東京都の西のはてとはいえ、この程度の距離だと宿泊せずに日帰りという人も多いと思います。しかし一泊すると違った楽しみ方も生まれる場所でもあるのです。キャンプ場やコテージが多いこの一帯ですが、今回は東京都で唯一、「日本秘湯を守る会」に参加している宿である「蛇の湯温泉
たから荘」に宿泊しました。
たから荘 室内
こちらが部屋のようす。窓のそとはすぐ下に秋川の渓流が流れていて、常に川の音が聞こえてきます。これは本当におちつくので、部屋での時間をゆっくりととりたいですね。
たから荘 夕ごはん
夕食も、檜原村周辺の野菜などをふんだんに利用した、素朴で味わい深いものでした。というか、舞茸です。舞茸が至高です。
こんにゃくの刺し身
あとはこちら、檜原村自慢のこんにゃくの刺し身。
十割そば
この日は新そばがちょうどでてきた時期でもあって、夕食の最後には十割そばがでてきました。ほんとうにごちそうさまでした。
宿から眺める渓流
温泉は内湯のみで露天はありませんが、湯殿からも渓流を見下ろすことができるのが、付近の温泉施設では得られない贅沢です。まだ夜の九時くらいでしたが、電気を消せば川の音ばかりが部屋を満たします。布団にはいりこみ、ふだんは忙しくてできない深い考えに沈んでいると、眠りはいつのまにかやってくるのでした。
どんな旅も歴史と文化と人の物語としてフィールドワーク的な手法で切り取ることを得意としています。
本業は北極の気候学者。ときに船で航海に出たりしています。